クロレラの研究報告
久保田真敏1)、櫻井美仁2)、門脇基二1,3)
1)新潟工科大学、2)新潟薬科大学、3)新潟大学
クロレラ摂取がアトピー性皮膚炎の症状を軽減する可能性
(クロレラ・機能性植物研究会 第3回研究集会(2021年、京都)で発表)
試験背景
アトピー性皮膚炎は慢性炎症性皮膚疾患であり、近年その患者数が激増しています。厚生労働省の患者数調査では2017年で約51万人との結果でしたが、各世代の有病率から実際の患者数はさらに多く数百万人に上ると考えられています。
アトピー性皮膚炎の発症・重症化には、アレルゲンに過敏に反応しやすいアレルギー体質(免疫グロブリン(Ig)Eをつくりやすい体質)や皮膚のバリア機能の低下が関与していると考えられています。
現在、このアトピー性皮膚炎の治療薬として、強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を有しているステロイド外用薬が用いられていますが、ステロイド外用薬は塗布量や塗布期間を厳密に守らないと皮膚炎が悪化したり、十分な効果が期待できなくなるという欠点があります。このようなことから、食品や生活環境改善などによる予防的な対策の重要性が提唱されています。
本研究では、クロレラの抗アレルギー作用および皮膚保護効果に着目、アトピー性皮膚炎の悪化を抑制する
①炎症の抑制、②皮膚のバリア機能の改善、③免疫応答の正常化の3つのポイントを中心に検討を行いました。
試験方法
雌性ヘアレスマウス(HR-1)を用い、皮膚に2,4,6-トリニトロクロロベンゼン(TNCB)を塗布して症状を惹起するアトピー性皮膚炎モデルに、クロレラ5%配合飼料(表1)を3週間の事前投与を含めて合計15週間投与して、クロレラのアトピー性皮膚炎に対する軽減効果を評価しました。
【結果】
1)皮膚角質層の水分含量
皮膚の乾燥はアトピー性皮膚炎の代表的な症状ですので、皮膚角質層の水分含量を評価しました(図1)。TNCB処理+通常飼料群(TNCB処理群)では、水分含量は著しく減少しましたが、TNCB処理+クロレラ飼料群(クロレラ群)では、試験後期(TNCB処理8週目以降)において水分含量が有意に高値を示し、TNCB処理よる水分含量の低下がクロレラ摂取により有意に軽減されていることが示されました。
図1 クロレラ摂取が皮膚角質層水分含量に与える影響
※対照群は、無処理(TNCB処理無し+通常飼料)のマウス
2)皮膚炎スコアおよび紅斑形成
皮膚炎スコアはTNCB処理開始後1週目から上昇しはじめ投与終了時まで上昇しましたが、クロレラ群ではTNCB処理開始3、4、6週目で有意に低値を示しました(図2)。紅斑はアトピー性皮膚炎の代表的な皮膚病変の1つですが、クロレラ群ではTNCB処理群と比較して有意に紅斑の形成が抑制されました(図3)。
図2 クロレラ摂取が皮膚炎スコアに与える影響
図3 クロレラ摂取が紅斑形成に与える影響
3)免疫バランス(Th1/Th2)およびIgE産生
細胞性免疫応答(Th1細胞側)および液性免疫応答(Th2細胞側)のバランスを評価するために,それぞれの免疫応答の指標の1つであるIgG2a(Th1)およびIgG1(Th2)濃度の測定を行いました。lgG1濃度はTNCB処理により著しく増加しましたが、クロレラ摂取による影響はみられませんでした。一方、IgG2a濃度はTNCB処理群と比較してクロレラ群で有意に低値を示し、lgG2a(Th1)/lgG1(Th2)比もクロレラ群で有意に低値を示しました。また、血清総IgE濃度はTNCB処理により著しい上昇がみられましたが、クロレラ群で有意な変動はみられませんでした(図4)。以上の結果より、クロレラ摂取はアトピー性皮膚炎モデルマウスのTh2細胞側免疫応答およびIgE産生に影響を与えないことが示されました。
図4 クロレラ摂取が血清総IgEレベルに与える影響
4)皮膚表在細菌叢への影響
TNCB処理開始12週目の皮膚表在黄色ブドウ球菌数は、TNCB処理による皮膚症状の悪化により大きく増加しましたが、クロレラ摂取により有意に抑制されることが明らかとなりました(図5)。
図5 クロレラ摂取が皮膚表在黄色ブドウ球菌数に与える影響
【考察】
本研究の結果から、クロレラはアトピー性皮膚炎の症状の1つである皮膚の水分含量低下や紅斑形成を軽減する作用を有していることが示されました。さらに、その作用は免疫系バランスの改善(細胞性免疫側への偏向作用)ではなく、皮膚に存在する黄色ブドウ球菌を抑制し皮膚表在細菌叢の正常化を介している可能性が推察されました。