クロレラの研究報告

研究報告者

立命館大学スポーツ健康科学部

家光 素行 教授

クロレラ摂取と高強度間欠的運動トレーニングの併用により運動パフォーマンスと筋肉の解糖系および酸化的代謝が促進する

(Horii N, Hasegawa N, Fujie S, Uchida M, Miyamoto-Mikami E, Hashimoto T, Tabata I, Iemitsu M. High-intensity intermittent exercise training with chlorella intake accelerates exercise performance and muscle glycolytic and oxidative capacity in rats. Am J Physiol Regul Comp Physiol. 2017, Vo.312)

短時間間欠的高強度運動(HIIE)トレーニング(=タバタトレーニング)

身体には、酸素を利用してできる「有酸素性エネルギー」と酸素を使わずにできる「無酸素性エネルギー」の2つのエネルギー供給機構があります。運動をするとき酸素を利用して糖や脂肪から運動に必要なエネルギーを生産しますが、陸上競技で言えば短時間で大きな運動エネルギーが必要となる短距離走のような競技では、酸素を利用せず糖をエネルギー源とする解糖系と呼ばれる代謝機構が働きます。解糖系では代謝産物として乳酸が生成され、運動強度が最大に近づくほど乳酸の生成量が増大し筋肉に蓄積され、筋肉に一定以上の乳酸が蓄積されると、筋肉の酸性度が増加し運動の継続が難しくなります。
「有酸素性エネルギー」はジョギングやエアロビクス等の有酸素性運動で鍛えることができ、持久力が上がります。「無酸素性エネルギー」は、高強度のインターバル運動(例えば、陸上競技では200m×5本のような運動)で鍛えることができます。
タバタトレーニングは、20秒間の運動と10秒間の休息を1セットとして、8セット、合計約4分間で疲労困憊に至る間欠運動を行うことで、短時間で2つのエネルギー供給機構を同時に鍛えることができるトレーニングプログラムです[引用1,2]。

本試験では、長期的なクロレラ摂取とHIITとの併用による運動パフォーマンスへの影響、さらに筋肉での解糖系と酸化的代謝への影響を検証しました。

試験方法

SDラット(雄、12週齢)を無作為に、対照群(Con)、クロレラ摂取群(CH)、短時間間欠的高強度運動トレーニング群(HIIE)および短時間間欠的高強度運動トレーニング+クロレラ摂取併用群(HIIE+CH)の4グループ(n=10)に分け、Con群とHIIE群には、通常の飼料を、CH群とHIIE+CH群には、0.5%クロレラ粉末配合飼料を6週間摂取させました。HIIE群とHIIE+CH群は、6週間の試験期間中、週4日、体重の16%の重りを付け20秒間の遊泳運動と10秒間の休憩を14セット繰り返す運動を行いました。
摂取期間の前後で、HIIE開始前と終了1分後に血中乳酸値を測定した。6週間の試験期間の最終のHIIEトレーニング終了の48時間後に20秒の遊泳運動・10秒間の休息を1セットとして、何回繰り返せるかの最大持続セット数を測定しました。さらに腓腹筋の赤筋と白筋について、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)、乳酸脱水素酵素(LDH)、クエン酸合成酵素(CS)、シトクロームオキシダーゼ(COX)の酵素活性と、PGC1-α、モノカルボン酸輸送体1(MCT1)、およびモノカルボン酸輸送体4(MCT4)の発現量を測定しました。
なお、本試験は、立命館大学動物試験倫理審査委員会の承認を得て、実施されました。

【結果】

6週間の摂取期間終了後、HIIE1分後の血中乳酸値について、HIIE群とHIIE+CH群ではCon群との比較およびCH群との比較で有意な低値を示し、HIIE+CH群はHIIE群との比較でも有意な低値を示しました(表1)。次に、HIIEトレーニングの最大持続数について、Con群に対し他の3群は有意な増加が認められ、HIIE+CH群では、CH群およびHIIE群との比較でも有意な増加が認められました(図1)。PFK活性は、赤筋および白筋ともCon群に対して他の3群は有意に増加し、HIIE+CH群はCH群およびHIIE群との比較でも有意な活性の増加が認められました(図2(A)、(B))。LDH活性は、赤筋においてCon群との比較で他の3群は有意な増加が認められ、HIIE+CH群では、CH群およびHIIE群との比較でも有意に増加していましたが、白筋については群間で有意差は認められませんでした(図2(C)、(D))。次に、PGC1-αは、赤筋および白筋とも、Con群に対して他の3群は有意な発現の増加が認められ、HIIE+CH群では、CH群およびHIIE群との比較でも有意な発現の増加が認められました(図3)。CSおよびCOXの活性は、赤筋において、Con群に対して他の3群は有意な発現の増加が認められ、HIIE+CH群では、CH群およびHIIE群との比較でも有意な発現の増加が認められ、白筋では群間の有意さは認められませんでした(図4(A)、(B)、(C)、(D))。MCT1およびMCT4については、赤筋でCon群に対して他の3群は有意な発現の増加が認められ、HIIE+CH群では、CH群およびHIIE群との比較でも有意な発現の増加が認められ、白筋では群間の有意さは認められず、MCT4では、赤筋、白筋ともCon群に対して他の3群は有意な発現の増加が認められ、HIIE+CH群では、CH群およびHIIE群との比較でも有意な発現の増加が認められました(図5(A)、(B)、(C)、(D))。

表1.HIIEトレーニング前後における血中乳酸値

  Con (n=10)   CH (n=10) HIIE (n=10)  HIIE+CH  (n=10)
介入前
HIIE前 1.97±0.18 2.03±0.31 2.18±0.34 1.92±0.39
HIIIE後 10.37±1.74 10.10±1.25 9.27±2.13 10.46±2.96
介入後
HIIE前 1.88±0.12 1.87±0.18 1.77±0.16 1.70±0.22
HIIIE後 10.63±1.67 8.85±1.19 6.97±2.67#$ 4.81±0.75#$&

数値は、平均値±標準偏差を示す。#P<0.05、介入後におけるCon群のHIIE後との比較。$P<0.05、介入後におけるCH群のHIIE後との比較。&P<0.05、介入後におけるHIIE群のHIIE後との比較。

図1.クロレラ摂取とHIIEトレーニングの併用によるHIIE最大持続セット数への影響

数値は、平均値±標準偏差を示す。#P<0.05、Con群との比較。$P<0.05、CH群との比較。&P<0.05、HIIE群との比較。

A

B

C

D

図2.クロレラ摂取とHIIEトレーニングの併用による腓腹筋(赤筋RGおよび白筋WG)のPFKおよびLDH酵素活性への影響

RG:赤筋、WR:白筋。数値は、平均値±標準偏差を示す。#P<0.0125、Con群との比較。$P<0.0125、CH群との比較。&P<0.0125、HIIE群との比較。

図3.クロレラ摂取とHIIEトレーニングの併用による腓腹筋(赤筋RGおよび白筋WG)のPGC-1α発現量への影響

RG:赤筋、WR:白筋。数値は、平均値±標準偏差を示す。#P<0.0125、Con群との比較。$P<0.0125、CH群との比較。&P<0.0125、HIIE群との比較。

A

B

C

D

図4.クロレラ摂取とHIIEトレーニングの併用による腓腹筋(赤筋RGおよび白筋WG)のCSおよびCOX酵素活性への影響

数値は、平均値±標準偏差を示す。#P<0.0125、Con群との比較。$P<0.0125、CH群との比較。&P<0.0125、HIIE群との比較。

A

B

C

D

図5.クロレラ摂取とHIIEトレーニングの併用による腓腹筋(赤筋RGおよび白筋WG)のMCT1およびMCT4発現量への影響

数値は、平均値±標準偏差を示す。#P<0.0125、Con群との比較。$P<0.0125、CH群との比較。&P<0.0125、HIIE群との比較。

【考察】

HIIEトレーニングとクロレラ摂取を併用することで、赤筋のLDH、PFK、CSおよびCOXの活性、また白筋のPFK活性が相乗的に増加し、加えて、赤筋のMCT1、MCT4およびPGC-1αタンパク質の発現、白筋のMCT4およびPGC-1α発現量も相乗的に増加したことから、骨格筋の解糖および酸化的代謝経路によるATP供給能が亢進し、結果として有酸素性運動および無酸素性運動能力が向上したと推測されました。
本試験の結果から、HIIEトレーニングとクロレラ摂取を併用することで、有酸素性運動および無酸素性運動能力が向上し、筋肉の解糖系および酸化的代謝、特に乳酸代謝が促進されることが示唆されました。

【用語説明】

モノカルボン酸輸送体1(MCT1)
乳酸の輸送体。主に骨格筋の赤筋(遅筋)に多く分布し、細胞内に乳酸の取り込み促進し、ミトコンドリアで酸化して利用することに関連している。

モノカルボン酸輸送体4(MCT4)
乳酸の輸送体。主に骨格筋の白筋(速筋)に多く分布し、細胞内から細胞外へ乳酸輸送を促進する。

ホスホフルクトキナーゼ(PFK)
アセチルCoAを合成する解糖系の主要酵素。解糖系によるエネルギー供給は無酸素的にエネルギー物質(ATP)を合成します。無酸素性エネルギー供給能の指標となる。

乳酸脱水素酵素(LDH)
解糖系の最終段階で働く酵素で、乳酸からピルビン酸を合成する。

PPARγコアクチベーター1α(PGC-1α)
運動することで骨格筋での発現が増加し、ミトコンドリアの生合成を促進する。

クエン酸合成酵素(CS)
酸素を利用する呼吸代謝経路の一つであるクエン酸回路の速度調節を行う、ミトコンドリアのエネルギー産生に関わる酵素の一つ。この酵素の活性が低いとエネルギー物質(ATP)産生量が低下する。

シトクロームオキシダーゼ(COX)
酸素を使う呼吸代謝の電子伝達系で、エネルギー物質(ATP)を合成する酵素の一つ。有酸素性エネルギー供給能の指標となる。

引用1.Tabata I, Irisawa K, Kouzai M, et al. Metabolic profile of high-intensity intermittent exercise. Med Sci Sports Exerc. 1997, 29: 390-395.

引用2.Tabata I, Nishimura K, Kouzai M, et al. Effects of moderate-intensity endurance and high-intensity intermittent training on anaerobic capacity and VO2max. Med Sci Sports Exerc 1996, 28: 1327-1330.