クロレラの研究報告

研究報告者

クロレラ・機能性植物研究会 理事
流通経済大学スポーツ健康科学部

大槻 毅 教授

クロレラは剣道強化合宿参加者の唾液中分泌型免疫グロブリンA分泌の低下を予防する

(Otsuki T, Shimizu K, Iemitsu M, Kono I. Chlorella intake attenuates reduced salivary SIgA secretion in kendo training camp participants. Nutrition Journal, 2012)

免疫機能とストレスの関係

適度な運動は免疫機能を高めますが、激しい運動は逆に免疫機能を低下させてしまいます。唾液中の分泌型免疫グロブリンA(SIgA)は、ヒトの粘膜免疫において重要な役割を果たしており、病原性細菌やウイルスに対して第一線の防御機構として働いています。激しい運動は、唾液SIgAの分泌を抑制し、感染症発症のリスクを増大させます(図1)。例えば、Yamauchiら[引用1]は、ラグビーの合宿中に唾液中SIgAが約25%低下し、選手の上気道感染症(かぜ症候群)の症状数が増加したことを報告しています。また、Akimotoら[引用2]は、3日間6試合のサッカー競技会で唾液SIgAが約45%低下したと報告しています。
一般の方はもちろんですが、特に厳しいトレーニングを継続するアスリートでは、免疫機能を落とさないことがコンディションを維持するために重要な課題となります。

図1.運動と感染リスクに関するJカーブ

Nieman DC: Exercise, upper respiratory tract infection, and the immune system. Medicine Science Sports Exercise 1994, Vol.26, No.2:128-139を改変

2011年に国際運動免疫学会は、アスリートに推奨されるSIgAのためのサプリメントは存在しないとの声明を出していますが、我々の研究グループでは、先にクロレラ摂取により健常者で唾液中SIgAの分泌が促進されることを確認しており、本試験でアスリートを対象としてクロレラの作用を検証しました。

試験方法

全国レベルの大学剣道部において、春季強化合宿(3月実施、6日間)および夏季強化合宿(8月実施、4日間)に参加した女子部員を対象に介入試験を行いました。春季合宿と夏季合宿に参加した女子部員10名(20±1歳)を無作為に2グループに分け、一方のグループは春季合宿ではプラセボ錠、夏季合宿ではクロレラ錠を合宿の4週間前から合宿終了後4日ないし5日後まで、1日30錠(15錠×2回、朝食・夕食時)を摂取しました。もう一方のグループは、プラセボ錠とクロレラ錠の順番を入れ替えて摂取しました。合宿開始前、合宿第2日、中間日、最終日および合宿終了後に唾液を採取し、SIgA濃度と唾液流量を測定し、さらに参加者の主観的な体調評価を行いました。評価項目は、「身体の軽さ」、「疲労感」、「筋肉のはり」とし、いずれも1(軽度)~5(重度)の5段階で、唾液採取と同日に記録しました。
なお、本試験は、筑波大学人間総合科学研究科研究倫理委員会の承認を得て実施されました。

結果と考察

試験期間中、プラセボ群およびクロレラ群とも有意な体重の変化は認められませんでした。主観的な体調評価では、プラセボ群で合宿前との比較で、合宿第2日、中間日および最終日いずれも「身体の軽さ」スコアの有意な低下が認められたのに対して、クロレラ群では、中間日のみ有意な低下が認められ、「疲労感」スコアについては、プラセボ群では合宿第2日、中間日および最終日いずれも有意な増加が認められたのに対して、クロレラ群では中間日のみ有意な増加が認められました(図2)。また、唾液中SIgA分泌速度(µg/min、唾液中SIgA濃度µg/mL と唾液分泌量mL/minから求めた値)は、プラセボ群では合宿前と比較し、合宿第2日、中間日および最終日いずれも有意な低下が認められたのに対し、クロレラ群では合宿中の有意な低下は認められませんでした(図3)。
これらの結果から、クロレラ摂取により競技スポーツの合宿中の唾液中SIgAの低下を抑制できることが確認されました。

図2.剣道合宿中の主観的体調評価

数値は、平均値±標準偏差。*P<0.05、合宿前との比較。**P<0.01、合宿前との比較。

図3.剣道合宿期間中の唾液中SIgA分泌速度と唾液中SIgA分泌速度の変化量

数値は、平均値±標準偏差。**P<0.01、合宿前との比較。

引用1.Yamauchi R, Shimizu K, Kimura F, et al. Virus activation and immune function during intense training in rugby football players. Int J Sports Med 2011, 32: 393-398.

引用2.Akimoto T, Nakahori C, Aizawa K, et al. Acupuncture and responses of immunologic and endocrine markers during competition. Med Sci Sports Exec 2003, 35: 1296-1302.